その天使は1年ほど前から、姿をかえ名前をかえて地上をときどき覗いてはいたのですが、世界のあまりの賑やかさに気になってしまったようです。
しかし、降り立ったその日に彼女の魂は天界に連れ戻され→翌日降り立つもまた魂を連れ戻され→翌々日にようやく定着、という早々に波乱に満ちたスタートとなりました。
そして、世界は楽しいお祭りでにぎわっていたのではなく、腐った竜のお祭りでした。
戦争で土地は疲弊し、人心は乱れ憎しみ合い。眼前に広がるのはそんな光景。
彼女は絶望し、2週間ほどで地上を去ります。
しかし彼女が天界に戻る際に、ひとつのカケラを落としました。
彼女の中の「希望」というカケラを。
それから9月になり、一人の羽有りの少女がとある森の中で目を覚まします。
その顔は、嘆いて地上を去ったあの天使と同じ顔していますが、羽は深い深い藍色をたたえていました。
そんな彼女にはそれまでの一切の記憶がありません。
わずかに覚えいるのは、自分の名前と、誰かを探しているということだけ。
自分の置かれている状況も、右も左もわからない彼女は、そのかすかな記憶をたよりに森から遠くに見える城門を目指すのでした―――――
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